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新年の迎え方(ディアーチェとユーリ)

をアップする予定です。


アップしましたよー

 夜の暗さも深くなり、冷たい冬の風が街を駆ける。

「何をしているのだ?」
「あっ、ディアーチェ」

 窓の外、部屋の中の明かりだけを頼りに外を眺める少女、ユーリに声をかける。
 声に気付いた彼女はふわふわの髪を揺らしながらてぺてぺと寄ってくる。

「そろそろ鐘が鳴ると思っていたんです」
「それでこんなところに、か?」
「はい」

 ユーリの笑った顔は寒い風の中にどこかあたたかいような雰囲気さえ感じさせてくれる。
 だからと言えど、外はまだ気温ひと桁の世界。
 無茶をする彼女にひとつ溜息。

「それ相応の格好というものがあるだろうに」

 部屋の中から持ってきた薄布を肩にかけてやる。
 これだけではまだ防寒に不安があるが、ないよりはましだろう。

「ありがとうございます」

 こちらに向けて笑って見せる。
 風邪でもひいたら元も子もないというのに、のんびりしたものだ。

「鐘の音など部屋の中ででも聞けるだろうに」

 ストーブもあってこたつもあってテレビもある。
 番組では除夜の鐘だって放送されるだろう。
 別段、外で聞く必要もあるまい。

「せっかくなので、自分の耳で聞いてみたいと思ったんです」

 今年になって、起こされてからだいぶ落ち着いて過ごせるようになった。
 だからだろうか、去年よりもゆったりと時を過ごしたように思う。
 春をまどろみ、夏を謳歌し、秋にたそがれ、冬に感謝した。
 そのせいか、近頃のユーリは――いや、元からの気質かもしれないが――ずいぶんと気まぐれに物事を起こして歩く。
 夕飯の買い出しをこちらでしているときに不意にやってきて、わざわざいい野菜の見極め方などを教えに来たり、散歩に出たと思ったらすぐに帰ってきて隣でお茶を飲んでみたり。
 正直、行動が読めずに持てあましているところもある。

「ふぅ、好きにせい」

 しばらくすれば除夜の鐘が聞こえてくる。
 そうすればすぐに入ってくるだろう。付き合いきれん。

「あれ、ディアーチェは聞きませんか?」
「聞かぬ。外はまだ寒い」
「そうですか」

 背中で聞いた声がどこか小さなものだったように思う。
 それにこちらも小さく答えて部屋に戻る。
 さて、冷蔵庫の牛乳でも飲むか。
 カップを棚から、冷蔵庫から2リットルのパックを取り出す。
 牛乳をカップに入れて、レンジの端に置く。
 タイマーとワット数をセット、『あたため』ボタンを押す。
 熱したカップは両手に持つと意外と熱い。
 窓を開けるのも不便。仕方なしに行儀が悪いが足を使う。

「ほれ」

 どこか遠くを見つめているユーリの前に左手に持ったカップを差し出す。
 それをどこかユーリは不思議そうに見つめ、こちらをちらりと向き、カップを取った。

「あったかい……」

 ほう、とはいたユーリの息は白い。
 肩の薄布をもっとしっかりかけてやる。

「除夜の鐘なぞ、ただただ長いこと鐘を突くだけであろう。我らの闇を払うことなどできぬ」

 我ら、闇統べる王、星光の殲滅者、雷刃の襲撃者、紫天の盟主、闇の書の構成体は闇こそが居どころであり、闇こそが生まれた場所である。
 煩悩と同列に見るのはいささか間違いかもしれぬが、似たようなものだろう。
 それを払うことなど、できるわけがない。
 言ってから何も反応がなく、反芻するように下を向いてうなずくユーリ。
 小さくカップを傾けて、ちびりと口にホットミルクを含む。
 ユーリが何も言わないことに少しさびしさを感じつつ、隣の柵に肘をついて体を預ける。
 肺に入った夜風が体を少しずつ冷やしていく。
 もう、部屋に入ってしまおうか、それとも……。
 悩んだ時だった。

「そうかも、しれませんね」

 つぶやくようにゆっくりと、肩に寄りかかってきた。
 少し小さな身長は頭が肩によりかかるのにちょうどいいらしく、満足気に、髪を気にすることもなく頭を軽くこすりつけてくる。
 頭を撫でてやったものか、いや、それともこれはただの気まぐれなだけで別段そういった見返りなど求めない行動なのか、考えれば考えるほどわからない。

「お、おい。ユーリ」
「なんです、ディアーチェ?」

 ふ、と見上げられた視線に言葉を失う。
 おだやかでうれしそうな、寒さも忘れて安心して落ち着かせてしまう目。
 どれくらいその目に見入っていただろう、小首を傾げるまで時間など忘れていた。
 微笑むユーリに少しバツが悪く、視線が泳ぐ。
 ユーリにもわかってしまったらしく、袖を引かれた。
 もう一度、静かに顔を合わせる。
 ホットミルクを飲んであたたまったのか色づいたほほ。
 少し眠くなっているのかやさしく細められた目。
 ユーリは腕にしがみついて、風に吹かれても大丈夫な距離で口を開いた。

「わたしの闇が払われないように、一緒にいてくれませんか。闇統べる王(ディアーチェ)?」

 あまりに近く、鼻と鼻がぶつかりそうな距離。
 誘うような文言に心が揺れる。
 一度、視線を外して外を向き、空いた手でカップに口をつける。
 しかし、落ち着かない。
 喉を落ちるホットミルクよりも熱くなった胸の内を抑えながら、言葉を絞り出す。

「……除夜の鐘がなるまで、それぐらい一緒にいればぬしも十分であろう」

 照れくさいが、どうにもそれくらいが限度だ。
 譲歩にしても承諾にしても、これくらいだ。

「それではそれまで――」

 ユーリが腕に強く抱きつくと同時だった。
 古めかしい大きな鉄の音が辺り一帯に響き渡った。
 ユーリの腕が力なく離れていく。
 もどかしそうに、名残惜しそうに。
 指と指が離れる。
 間が悪い鐘の音だ。そう思いながら離れていった手を取り、引き寄せ、肩を抱く。
 どうせまだカップの中身はなくなっていないのだから、少しくらい付き合おう。
 そうだな、除夜の鐘を聞き終えるくらいまでは飲み終わるだろうか。

「あまり……こっちを向くな」

 驚いた顔で見上げてくるユーリ。
 そんな顔をされると調子が狂う。
 ユーリのカップにもまだあたたかいミルクが入っているだろうに。

「ディアーチェ……。来年も、よろしくお願いします」

 おかしなことを言うユーリに口元がゆるみそうになる。

「たわけ、もう今年だ」
「ええ、そうでした」

 お互いに体温を感じながら、頭と頭を寄せ、時に遊ぶように合わせ、ふわふわの髪の感触を確かめる。
 新年の初め、実際に聞いた除夜の鐘は意外なほどに長かった。

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