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バレンタインなので「ビタースイート」

どうも、バレンタインデイが終わりましたね。(挨拶
一時間とか諦めました。
フェイはや置いておきます。

「ビタースイート」




誰かの誕生会を思わせるような大きな張り紙が八神家のキッチンの入り口に貼ってある。
「八神はやてのチョコレートクッキング」
そうポップ調に書かれ、どこかで見たような茶色がかった黒のハートなぞもそばに描いてある。
それもそのはず、ただのチョコレートを作るわけではない。
ハート型チョコなどというあからさまに過ぎるチョコを作る時期は決まっているのだから。

「さーて、そんなら調理開始といこうか、フェイトちゃん」

聖祥小の制服から私服に着替え、その上にエプロンをつけるフェイトにはやてが声をかける。
ここは八神家、一軒家のキッチンにはやてとフェイトのふたりきり。
必然、家長でもあるはやてが先生になる。
家長というくくりを抜いても料理の腕前からはやてが順当に先生となるけれども。
そんな関係性に置かれつつ、生徒フェイト・T・ハラオウンは質問する。

「はやて……あの、これは使うの?」

キッチンに乗せられていたごつい酒瓶を指さす。銘柄は「Dark Knight」。
角瓶のパッケージには馴染みの薄い言語で名前が書かれてあるものの、意味に関してはよくわからない。
しかし酒であるとだけは茶色の角瓶、そしてパッケージの端に書いてある「酒」の地で判別できていた。

「作る内容によっては使うこともあるよー」
「わたしたち、使わないよね……」

今回のチョコ準備のイベント、それはもちろんバレンタイン。
自らをパティシエとして挑むイベントは料理の技術はもちろんとして芸術的センス、常識的範疇の許容値の広さ等々。
これらすべてを試されるイベントである。

「まあ、そこはもしかしたら、ってとこでの材料確保やね~」

にっこりと笑いながら酒瓶をテーブルの置くに追いやるはやて。
正直、それに不安を覚えるのはフェイトの心配性が故だろうか。
いや、実際そういう策を回してそこそこに危うい橋を渡るようで渡らず、時にそのまま突っ走る。
ゆっくりと自分の力で歩き始めたときから少しずつ変わったはやての性格だ。

「私たちが作るのはアマンドショコラでしょ」

わかってるわかってる、そう言いながらテーブルの上の材料をかき集めるはやて。
渡す相手は友達同士。
アマンドショコラとは、アーモンドをチョコでコーティングし、ココアパウダーを振りかけたお菓子である。
作り方はおおよそ、ざく切りして→溶かして→アーモンドと絡めて→ココアパウダーを振りかけて完成である。

「さて、まあレシピも大体わかってるし、間違わんで作ったらなんとかなる。フェイトちゃんも包丁持ってがんばろか」

フェイトが神妙な顔をして包丁を持ち、固く握った手をチョコに振りおろした。

「さて、まあ、とりあえず危なっかしいところはありつつやけども……できたんやないかな?」

途中、いや最初の一振りから危ないことだらけではやてからのストップが入り、ところどころ放置されつつ、やらかしつつ、それでも体裁を保ち、完成の一歩手前まで到達したのである。

「はやて、ありがとう……」
「ほんと、苦労したわ……」

あとは冷やすだけのトレイを持ちながら疲弊したフェイトがお礼を言う。
返すはやても疲れを隠さず、イスに座ってテーブルを拭いている。
ところが、冷蔵庫の前、フェイトが気を抜いた一瞬。
動線通り曲がろうとしたトレイの端が何かにぶつかった。
細く高い音。
ガラスと金属がぶつかって起きた小さな音。
けれどそれが引き起こすのは面倒事の一つ。
角瓶が倒れた。

「っちょ、フェイトちゃん!?」
「ごめん、うわ、待って待って!!?」

倒れた角瓶からは栓がゆるんでいたのか中身が漏れ始めていた。
それを見たフェイトはしかし、持っているトレイを置くに置けず、慌てながらもトレイを置く場所がどこかないかと地団太を踏むように動けずに探している。
しかしじわりじわりと広がる水たまりはココアやチョコのかけらなどを飲みこんで甘い匂いを漂わせる。
そこでようやくはやてのヘルプが入った。
台拭きが水たまりに落ち、角瓶がようやく起こされた。

「ごめん、はやて……」

トレイをイスにどうにか置いたフェイトは、流れ出たアルコールを拭いているはやてに声をかける。
けれど、何も返してこないはやてに違和感を覚える。

「はやて……?」
「……ん、ああ、別に気にせんで。そんなとこに置きっぱなしにしてたのも悪かったし」

どうも歯切れが悪い。
何か変だと思っていると、同じところばかり拭いているのがわかった。

「はやて、大丈夫?」
「ん、うん、だいじょうぶ……」

顔を上げたはやてはほほが赤い。
これはたまにリンディ母さんが陥る症状に似ている。
そう、酒に酔った時のような。

ぺたん、と軽い音とともに床に座り込んだはやて。

「ごめ、ちょっと、なんやあっつくて……」

心配もあるものの、それでも何かされるのではないかという不安もありつつはやての額に触れる。蛇足になるけれど、リンディ母さんは絡み酒だということを追記しておきたい。

「ひやっこい……」

はやては当てられた手に気持ち良さそうに表情を緩め、フェイトから冷気を奪うように手を押しつけさせた。
頭がぼうっとするのか目をつむったまま頭を押し付けてくる様子は、控えめに言って、かわいい。
懐いているような無防備な表情。

「ぁ、きもちぃ……」

何このかわいいいきもの……!
フェイトがそう思ったのも仕方ない。
額に当てられた手を、はやてが自ら両手で大事そうに頬に当てさせるのだ。
それもうっとりとうれしそうに、おだやかにかわいらしく、安らかに。
柔らかく滑り落ちそうなほどさらさらな肌。
ほんのりと染まった頬。
控えめに寄せられた眉根。
自然と開いてしまっている唇。
ほんのりと香る甘いチョコの香り。
はやてのすべてがフェイトの内で反響し、甘い匂いに頭のどこかが麻痺していく。

「ぁ……」

するすると指を滑らせると、その感触にどちらともなく声が漏れる。
はやては一層手にすりつき、甘えた仕草をフェイトに見せる。
鼓動が速くなり、呼吸が浅くなる。
ただ手を当てているだけなのに、それなのに緊張して、うれしくて、もっとはやてのそんな姿が見たくなってしまう。
友達なのに、おかしい気がするのに。

「はやてちゃん、フェイトちゃん、大きな音がしましたけど大丈夫ですかー!」

聞き覚えのある声に意識が戻る。
ぱたぱた走ってきたのは八神家の食卓を預かるナンバー2、シャマル。
姿が見える前にはやてから手を離す。
フェイトが自身でお酒をこぼしたこと、その揮発したアルコールにはやてが酔ったのかもしれないということを伝える。
するとシャマルははやてに手を洗わせて、ソファの方に運んで行った。
その間にフェイトはイスの上に置いていたチョコの入ったトレイを冷蔵庫に入れる。
その流れで水にぬらしたおしぼりを寝かされたはやての額に置いた。
早くなりますように。
だが、少しだけ嘘も交じった。
もう一度、あんなはやてが見れますように。
ほんの小さな、苦い祈りが。
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